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札幌地方裁判所 昭和50年(ワ)3066号 判決

原告 橋本芳蔵

右訴訟代理人弁護士 馬見州一

右同 本田勇

被告 津川重吉

被告 津川鉄也

右両名訴訟代理人弁護士 亀石岬

主文

被告津川鉄也は、原告に対し金四三万六、三四五円および内金二三万六、三四五円に対する昭和四九年七月五日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを四分し、その一を被告津川鉄也の負担とし、その余は原告の負担とする。

この判決は原告の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

被告らは原告に対し連帯して金一七〇万三、七六一円および昭和四九年七月五日より支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言。

(被告ら)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

(請求原因)

一  事故の発生

原告は、次の交通事故(以下本件事故という)によって傷害を受けた。

1 発生時 昭和四九年七月四日午後一〇時五五分ころ

2 発生地 恵庭市住吉一二六番地先路上

3 被告車 自動二輪車(車輛番号恵庭い六四三号)

運転者 被告 津川鉄也

4 被害者 原告

5 態様

被告津川鉄也は、被告車を運転して国道三六号線を札幌方面より千歳方面へ進行し、恵庭市住吉一二六番地先の交通整理の行なわれていない交差点(以下本件交差点という)に入ったところ、折から同交差点を左方道路から右方道路へ自転車(以下「原告車」という。)で横断中の原告に衝突したものである。

6 原告の傷害部位・程度

(一) 傷病名 頭部挫傷、多発性打撲傷、右腓骨々折等

(二) 治療経過 昭和四九年七月四日より同年一〇月五日まで入院治療、同月六日より現在に至るまで通院継続。

二  責任原因

1 被告鉄也は、前記交通整理の行なわれていない交差点に差しかかってこれを直進しようとしたところ、このときすでに同交差点左方道路から原告車が同交差点内に進入し直進しようとしていたのを認めたのであるから、直ちに一時停止または減速徐行して同車の通過を待ち、左右道路の安全を確認のうえ、進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、同車の後方を通過できるものと軽信して時速約五〇キロメートルのまま同交差点に進入した過失により、自車前部を原告車右側部に衝突させたものである。

2(1) 被告鉄也は、高校生で被告車を専用し、これを自己のため運行の用に供していた。

(2) 被告重吉は、被告鉄也の親権者として被告鉄也に対し民法第八二〇条による監護教育の義務があるところ、同被告が被告車を購入して同車で通学またはアルバイト目的の通勤に利用することを黙認して承諾を与えていたばかりか、右車両の維持管理費ないしガソリン代につき、被告鉄也が自らアルバイトで得た収入をもって負担していたものの、親権者としてそれによる通学通勤費の負担を免かれて同車の維持等につき、消極的負担をなし、かつ被告鉄也に対する監督権の行使を通じて被告車を事実上占有し、支配していたものであるから、同車を所有する被告鉄也と同様に同車の事実上の占有者、所有者としてその運行を支配していたものといわなければならない。

3 よって、被告両名は、いずれも自賠法第三条により本件事故によって生じた損害を賠償すべきである。

三  原告の損害

1 治療費    金五九九、〇二八円

(一) 昭和四九年七月四日より昭和五〇年三月三一日までの黒田整形外科医院に支払った入・通院治療費

金五七〇、一九三円

(二) 昭和四九年八月六日柏葉脳・神経外科医院に支払った通院治療費

金一八、三二四円

(三) 昭和四九年八月二七日より昭和五〇年三月三一日までの吉野耳鼻咽喉科医院に支払った通院治療費 金一〇、五一一円

2 付添看護費   金二四、〇〇〇円

原告は本件受傷により入院し、その入院期間中少なくとも一二日間は付添を要し、付添費は一日金二、〇〇〇円が相当である。

3 入院諸雑費   金四七、〇〇〇円

原告は本件受傷により、合計九四日間入院し、その入院中一日金五〇〇円の割合で諸雑費を支出した。

4 文書料      金三、〇〇〇円

(一) 診断書二通。但し、一通金一、五〇〇円のものと金五〇〇円の二通ある。

金二、〇〇〇円

(二) 診療報酬明細書一通。

金一、〇〇〇円

5 通院交通費   金一八、八一〇円

(一) タクシー代   金八、三一〇円

原告は本件受傷の結果、やむなく通院のためタクシーの利用を余儀なくされ、昭和四九年八月六日黒田整形外科医院より柏葉脳・神経外科医院まで往復したタクシー代金七、〇〇〇円、自宅より黒田整形外科医院に通院した昭和四九年七月九日のタクシー代金三二〇円、同月一〇日の同金三二〇円、同月一六日の同金三五〇円、同年一〇月五日の同金三二〇円、以上合計金八、三一〇円を支出した。

(二) バス代    金一〇、五〇〇円

原告は治療のため黒田整形外科医院及び吉野耳鼻咽喉科医院に通院したが、その際自宅よりバスを利用し、昭和四九年一〇月六日より昭和五〇年四月三〇日までに合計一七五回通院した。バスの往復料金は金六〇円である。

6 慰藉料  金一、一四〇、〇〇〇円

原告は本件事故により重傷を負い、事故当日の昭和四九年七月四日より同年一〇月五日まで黒田整形外科医院に九四日間入院し、同年一〇月六日より昭和五〇年六月三〇日現在まで同病院のほか、吉野耳鼻咽喉科医院など二医院に九か月間通院したので、本件受傷に対する慰藉料としては金一、一四〇、〇〇〇円を下らない(但し、原告は現在も通院継続中であるから、右金額は一部請求にとどまる)。

7 休業損害   金一八〇、四四〇円

原告は本件受傷の結果休業を余儀なくされたため、労働者災害補償保険金として一日金四、五一一円の割合で休業期間中填補を受けたものの、夏期及び冬期の手当を勤務先より受けられなかった。昭和四八年度冬期及び昭和四九年度夏期における各手当の実績はいずれも日給の二〇日間分であったから、原告は本件受傷がなければ少なくとも一日金四、五一一円の割合で四〇日間分の手当を受給できたはずである。

8 弁護士費用  金二八〇、〇〇〇円

昭和五〇年四月一日現在における日本弁護士連合会の報酬基準規程によれば訴訟物の価額が金一〇〇万円を超え金三〇〇万円未満の場合、手数料及び成功報酬は請求金額の各一割を最低とする旨定められているので、弁護士馬見州一は原告に対し、本件事件を受任の際この旨説明して確約を得、とりあえず手数料として金一〇〇、〇〇〇円の支払を受けた。

四  損害の填補

原告は、事故当日より昭和五〇年三月三一日までの治療費として金五八八、五一七円を、労働基準監督署よりその給付を受けた。

五  よって、原告は被告らに対し、不法行為に基づく損害賠償として各自金一、七〇三、七六一円及びこれに対するうち金一、四二三、七六一円につき昭和四九年七月五日より支払ずみまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(請求原因に対する認否)

一  請求原因第一項のうち、1ないし5の事実は認め、その余は不知。

二  同第二項のうち、被告鉄也が高校生で被告車を専用して自己のため運行の用に供していたこと、被告重吉が被告鉄也の親権者であることは認め、その余は争う。すなわち、被告鉄也は、アルバイトをしながら定時制高校へ通っていたものであり、被告車を専有しており、月二、〇〇〇円程度の管理費等も自己が負担していた。従って、被告重吉は、被告車につき何ら運行の用に供していたとはいえず、本件に何らの責任はない。

三  同第三項のうち1ないし5、7、8は不知、6は争う。

四  同第四項は認める。

五  同第五項は争う。

(抗弁)

被告鉄也は、大型貨物自動車の直近を同車に追尾し本件交差点を通過しようとしたところ、原告が、右貨物自動車が本件交差点を通過するや、いきなり、同交差点に侵入したため生じた事故であり、被害者の飛び込み自殺にも等しく、被告鉄也には全く責任がない。仮りに鉄也に多少の過失があったとしても、被害者の過失は八割以上であり、当然過失相殺されるべきである。

(抗弁に対する認否)

否認する。

第三証拠《省略》

理由

第一本件事故の発生

請求原因第一項のうち1ないし5の各事実は当事者間に争いがない。

《証拠省略》によれば、原告は本件事故により頭部挫傷、多発性打撲症、右腓骨々折等の傷害を負い昭和四九年七月四日から同年一〇月五日までの九四日間入院し、黒田整形外科医院および柏葉脳・神経外科医院において治療を受けたこと、退院後も昭和五〇年三月三一日ころまでの間黒田整形外科医院、吉野耳鼻咽喉科医院に通院して治療を継続し、同年一〇月二九日ころ一応治癒したことの各事実が認められ、これを覆えす証拠も存しない。

第二被告らの責任

一  被告鉄也について

被告鉄也が、被告車を専有し運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。

よって、同被告の免責の主張について判断する。

《証拠省略》によれば、本件事故現場は、国道三六号線と緑町方面から駒場町方面に向う道路が交差している信号機の設置されていない見通のよい交差点であること、被告鉄也は被告車を運転して時速約四〇キロメートルで国道三六号線の左側車線中央付近を札幌方面から千歳方面に向けて進行し本件交差点に差し掛った際、左前方約二二・六メートルに年寄り(原告)が右手に何か荷物を持ち、左手で原告車のハンドルを握って、左足を道路の縁石に掛けて停止しているのを認めたこと、丁度、反対車線を進行して来たダンプカーを認めて、それに注意を奪われて漫然と進行したため、本件交差点に進入してきた原告を約五・九メートルに接近して始めて気が付き、急制動の措置を講じたが間に合わず、自車の前輪を原告車の前輪右側に衝突させたこと、一方、原告は右手に太さ七五ミリメートル、長さ約九〇センチメートルの塩化ビニール製パイプを持ち、左手片手ハンドルで原告車を運転し緑町方面から駒場方面に向けて進行していたこと、原告は、国道三六号線を横断すべく本件交差点に差し掛ったが、一たん交差点手前で停止し歩道の縁石に左足を掛けて左右の交通の状況を確認したところ、札幌方面から進行してくるダンプカーが約七〇メートル左方を走行しているのを確認し、横断できる状況であると判断して再び原告車を漕ぎ出し本件交差点に進入したところ被告車と衝突したことの各事実が認められこれを覆えすに足る証拠は存しない。

以上の事実によれば、被告鉄也は国道三六号線を横断しようとして待機している原告を約二二・六メートル前方に認めたのであるからその動静には十分注意を払うべきであるのに対向車輛に注意を奪われ漫然と進行した過失により原告の発見が遅れ本件事故を惹起せしめたものであるといわざるをえない。しかしながら、原告は、右手で塩化ビニール製パイプ管を抱え、左手片手でハンドルを操作する不安定な状態で国道三六号線を横断しようとしたのであるから、左右の安全を厳に確認しなければならないことは多言を要しないところであり、車輛の流れから軽々に横断できるものと判断して被告車が接近してくるのに気付かず本件交差点に進入した原告の過失も見落すことはできず、結局、本件事故の態様、年令、車輛の種類その他一切の事情を斟酌すると本件事故に対する被告鉄也の過失は五、原告の過失は五と認めるのが相当である。

二  被告重吉について

《証拠省略》によれば、被告鉄也は、本件事故当時被告重吉らのもとに起居して定時制高校に通学し、学校の休みの時期等には、土方や農家の手伝い等のアルバイトをして小遣銭を稼いでいたこと、被告車は、昭和四八年八月ころ、被告鉄也が通学やレジャー用として、右アルバイトにより貯蓄していた自己所有の金員を出捐して山川自転車サイクル店から購入したこと、しかし、被告重吉ら同鉄也の家族は、以前から被告鉄也がオートバイを買うことに反対しており、右買入も家族のものに無断であったこと、被告車は専ら被告鉄也が通学やレジャー等の個人的目的のために使用運転し、ガソリン代等の維持管理に要する費用もすべて被告鉄也が自己のアルバイト料その他の手持金から支出していたこと、被告重吉らも被告鉄也の被告車購入の事実を知った際、敢えてこれに反対して車の返還を強要することもなく、これまで被告鉄也が通学等に使用していた自転車に代って被告車を乗りまわすことにつき再三注意を与える程度でこれを黙認していたことの各事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右に認定した事実によれば、被告重吉は、当時一八歳の高校生であった被告鉄也の親権者で、同被告に対して監護指導するべき立場にあり、前示の如く同被告が被告車を購入して運転しているのを知って黙認したばかりか、被告車を自宅に駐停車させておくのを容認していたと推認されるが、もともと被告鉄也のオートバイ購入に反対していたこともあって、被告鉄也は、被告車を被告重吉に無断で購入し、その後の管理・運転もすべて自己の負担においてなされており、被告重吉はじめその他の家族の用等に使用されるようなことはなかったのであり、このような事実関係では、被告重吉に本件事故発生当時被告車の運行支配と運行の利益が帰属しているとは認めることはできない。その他に原告の主張を維持するに足る証拠も見出しえない。

第三損害

一  治療費   金五九万九、〇二八円

《証拠省略》によれば、原告は本件事故により頭部挫傷、多発性打撲症、右腓骨々折の傷害を負い、その治療費として、黒田整形外科医院に対し金五七万〇、一九三円、柏葉脳・神経外科医院に対し金一万八、三二四円、吉野耳鼻咽喉科医院に対し金一万〇、五一一円をそれぞれ支払ったことが認められる。

二  付添看護費  金二万四、〇〇〇円

《証拠省略》によれば、原告は前記傷害により黒田整形外科医院に九四日間入院し、その間昭和四九年七月四日から同月一五日までの一二日間付添人の看護を要したことが認められ、前記傷害の程度に照らせば、付添看護費は一日当り金二、〇〇〇円が相当であると認められる。

三  入院諸雑費  金四万七、〇〇〇円

原告は、前記認定のとおり黒田整形外科医院に九四日間入院したものであり、その入院に伴う雑費は傷害の程度や入院期間等に照らし一日金五〇〇円が相当であると認められる。

四  文書料      金三、〇〇〇円

《証拠省略》によれば、原告は診断書二通、診療報酬明細書一通を取寄せ、その文書料として合計金三、〇〇〇円を支払ったことが認められる。

五  通院交通費  金一万八、八一〇円

《証拠省略》によれば、原告は黒田整形外科医院に入院中同医院から柏葉脳・神経外科医院に治療に行った際、および黒田整形外科医院退院後も引続き治療を受けるため、同医院および吉野耳鼻咽喉科医院に通院し、そのためタクシー代として合計金八、三一〇円、バス代として少くとも合計金一万〇、五〇〇円を支払ったことが認められる。

六  休業補償  金一五万七、八八五円

《証拠省略》によれば、原告は本件事故当時、恵庭水道株式会社に勤務し、一日平均金四、五一一円の日額給料の支払を受けていたこと、昭和四八年の夏は日給額の一五日分、同年の暮には同二〇日分の賞与の支払を受けたが、昭和四九年の賞与については本件事故により昭和五〇年五月一一日まで休業したため、その支払が受けられなかったことの各事実が認められ、これによると原告が支払を受けられる賞与額は合計金一五万七、八八五円である。

七  慰藉料       金一〇〇万円

本件事故の態様、原告の傷害の程度、治療期間、後遺症の内容・程度、その他諸般の事情を斟酌すると、慰藉料としては金一〇〇万円をもって相当とする。

八  弁護士費用      金二〇万円

原告は、本件原告訴訟代理人に本訴訟の委任をしたが、本件事案の内容、請求認容額その他本訴にあらわれた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係にある損害として被告らに負担させるべき費用としては、右金額が相当である。

九  損害の填補

原告が、事故当日より昭和五〇年三月三一日までの治療費として金五八万八、五一七円を労働基準監督署より給付を受けたことは当事者間に争いがない。

第四結論

よって、原告の本訴請求は、被告鉄也に対して以上合計金四三万六、三四五円およびうち弁護士費用を除いた金二三万六、三四五円に対する本件事故の翌日である昭和四九年七月五日より支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、同被告に対するその余の請求および被告重吉に対する請求は失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 星野雅紀)

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